好奇心は鯖をも殺す

日記

とんかつが乗ったラーメンを食べに行った話。

日曜日の朝、遊びから帰ってくると、50代も半ばにさしかかりながらも三度の飯よりジャンクフードが好きな父(薄味だとすぐ醤油を掛けるのをやめてほしい)からラーメンを食べに行こうと誘われた。
法事に行った折、親戚からとんかつの乗ったラーメンの話を聞いて帰ったらしい。
正直な所眠りたいし面倒ではあったものの、とんかつラーメンの物珍しさもあって、話に乗ってみることにした。

高速道路をかっ飛ばす車で連れられた先は大分県臼杵市。
市の中心部から少し離れていたものの、大分市へと続く主要道沿いというまずまずの立地であった。
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お食事処「幸悦」。如何にも田舎の道沿いにある大衆食堂といった趣の店構えである。
早速入ってみると外観からの予想を裏切らない内装。テーブル席が埋まっていたので、カウンターに座ることにした。

噂のとんかつラーメンは確かに、しかし目立たずメニューに載っていた。
人数分頼んでセルフサービスの水を注いでいると、「お客さん、初めてきたの?」と、カウンターの店主らしき人の声が。
応えると、「美味しいって言われて来たんでしょ?お客さん若いからがっかりしないでね。」「うちのラーメンは薄味!最近流行りの濃い~豚骨じゃなくて、健康に気を使った薄塩薄味のラーメンを敢えて作ってるんだよね!」「油は喉には優しいけど腹には悪い!兄ちゃん若いけど今のうちから覚えといて!」と壁に貼られた自作風の大判プリント張り紙を指さしながら、矢継ぎ早に話し掛けてくる店主。
適当に応え、カウンターの客に絡みたがる、拘りのあるタイプなのだろうかと思いつつ店内を眺める。

ふと、メニューの隣にある紙に目が入った。
この店の替え玉には所謂普通の替え玉と、ラーメン通の替え玉の2種類があるらしい。
後者は、スープまで完食してから替え玉を注文すると、最初から作りなおして1杯のラーメンとして提供してくれるものだという。
「頑固親父より」と記されたコメント欄には熱々のスープを堪能できると書かれていた。こちらを頑固親父こと店主は推奨しているらしい。
替え玉が110円なので実質2杯目以降110円というシステム。良心的だ。

ただ、頑固親父を自称している店主とカウンター越しに正対することに、僕は緊張を覚え始めていた。
カウンター客に絡みたがるタイプなのだと思っていた店主は、ラーメンを作る手を止め、カウンターを抜け出し、テーブル席の客にラーメン壁を指さしながら自慢のラーメンについて熱く語っている。
単なる物珍しさでやってきた僕の手には、あわよくばブログにでも載せてみるか~と軽い気持ちで持ってきたカメラが。
しかし、ここでラーメンを前にして、口をつける前に写真など撮っていては「高菜、食べてしまったんですか」事案のおそれすらあるのではないか。
震えた。

そうこうしているうちに、ラーメンが出来上がった。
ラーメンとサービスのごはんが届いたところでカメラを構え、パチリ。
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特に何も言われなかった。高菜にならなくて良かった。
オーソドックスな豚骨ラーメンだ。丸々一人前サイズのとんかつが乗っている以外は。
さも当然かのようにそこにいるとんかつ。彼の本当の居場所はキャベツの上でもご飯の上でもなく、ラーメンのスープの上だったのかもしれない。

まずスープを一口。
薄塩で脂も少なめと言っていた割にしっかりとした豚骨スープで、コクもある。
普段好んで食べるのは頑固親父の言う通り、ドロドロで臭いくらいの豚骨ラーメンだが、はっきり言ってこれはうまい。ドロドロの豚骨が苦手な人でも行ける味だ。
麺のほうは、中細麺というのだろうか、普通より少し細めのストレート。風味が良く、噛み切る歯ごたえも硬すぎず、心地良い。

そして、カツ。
揚げたてでサクサクの衣の食感は、スープに使ってもボケボケになることなくしっかりしており、豚肉の幸せな甘みが口の中に広がる。うまい。

ではラーメンとの組み合わせはどうか。
ここで問題が生じた。とんかつの味と脂に支配された舌が、ラーメンの味に対して非常に鈍感になってしまったのだ。
ラーメンの味がボケていく。
とんかつラーメンと聞いて、とんかつとラーメンの相乗効果によって1+1に2を越えさせるか、その逆で1を下回ることを予想していたが、そのどちらでもなかった。結果は1.1くらいだ。
カツカレーを1.3くらいにしか感じない人間が食べてはいけなかったのだろうか。
うまいのは間違いないが、勿体無い。別で食べたかったというのが本音だ。

店を出て車に乗り込むと、父が「うまいんだけど、別々に食べたほうが良かったよな。」と一言。
全くその通りだと思った。
それぞれは美味しかったので、次は是非単体で食べに行こうと思う。

コンビニでアイスコーヒーと棒アイスを買い、帰りの車に揺られる。
コーヒーと甘味と晴れた日曜日。良い組み合わせとはこういうものなのだと思った。

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